「別に…」
「エリカ様か!」
「煌生様か!」

騒ぐ友人達を尻目に窓の外に視線を向ける。きっと一つ上の階、自分の教室で今頃もう席に着いているであろう彼女に想いを馳せながら。

―怒ってる?よなぁ・・・。

彼女にとって自分はただの委員会が同じなだけの先輩でしかなくて。
赤面症の克服に付き合ってくれて優しい人、という感情はひしひしと感じれど、【異性としての好意】は哀しいかな感じた事がない。
そんな男にキスなんかされて。しかも、しかも…。

「絶対ファーストキスだよな…」

片手で顔を覆う。にやけそうな口元を溜息をついて誤魔化す。

―本当にごめんね。きっと君は怒っているよね。そして落ち込んでるだろう。なのに俺は、心苦しさより嬉しさで胸が痛いんだ。昨日の夜、君の唇に重なったそこに触れて、すごく興奮してしまったんだ。

「え?ファーストキス?」
「ナニナニ、煌生ファーストキスなの!?」
「んな訳ないじゃん、ねぇ!?」
「って、何でニヤニヤしてんの煌生」

ああ、本当に最低だ。きっと自分には恋をする資格がないんだろう。
訝しげな友人を他所に、煌生は今度こそ本当に深く溜息を吐き出した。



 そんな彼の元に恋煩いの相手がやって来たのは、三時間目終わりの休み時間だった。

「次体育だっけ?」
「四時間目の体育が一番辛い。腹ペコじゃー」
「午後イチの数学の方がつれー」

そんな会話に適当に相槌を打っていると、扉付近のクラスメイトが彼を呼んだ。

「煌生、まーた後輩の女子来てっけど」

煌生は心底うんざりしていた。
高校に入学してすぐ、告白のラッシュがあって、それも一年経ってようやく落ち着いたと思ったのに、次は新一年生からの告白ラッシュがやってきたのだ。

「あー…あぁっ!?」