掃除も終わり後片付けを済ませた二人は、今日の頑張った証でもある汚れた軍手を外す。

「手、洗おう。手」
「そうですね」

花壇の隅の蛇口を凛子が捻る。その後ろ姿を眺めながら、煌生は改めて自身の想いに納得する。

―好き、だなぁ。

今は一つに束ねられたふわふわの長い髪も。そこからのぞく真っ白な首筋も。振り返るほんのり赤く染まる顔も。こちらを見つめるガラスみたいなうるうるの瞳も。

「先輩?」

甘く響くその声も、全て好きだ。

誰かをこんなふうに想った事などない。心地いいけど、焦れったくて。幸せなのに、チラチラと不安が積もる。
君の事、宝物みたいに大事にしたい。でも、たまにめちゃくちゃにしてしまいたくなる。

「っ先輩、水!」

上下できる蛇口、ボーッとしたまま上向きの蛇口を捻り続ける煌生の手を、凛子が慌てて止めるが時すでに遅し。
しかも庇うように体を差し込んだ彼女がびしょ濡れになってしまうという悲劇。

「りんごちゃん!」

煌生がはっと視線を戻した時には、ワイシャツが濡れて小花柄のインナーが綺麗に透けていた。

「っ」

何だかイケナイものをみてしまった気分になって、ぱっと顔を逸らす。しかし脳裏に焼き付いて離れない。
インナーの細い肩紐の部分とか。シャツが張り付いて浮かび上がる華奢な体のラインとか。
それらを頭から振り払うように、声を掛ける。

「ごめん、大丈夫?」
「大丈夫です大丈夫です」

笑ってみせる彼女にも、目が泳ぐ。今時の中学生の方がもっと平然としているのではないか。

「ジャージ、あ、今日体育あった?」
「いえ、なかったです」
「まじか、俺もなかったから持ってないしな」
「あ、大丈夫ですよ、本当。今日真夏日ですし」

丁度いいです。その言葉に煌生は、頭で『違うんだよなー』と溜息をつく。
ちらり、薄目を下に向ければ、本当の溜息が漏れた。