「りんごちゃんのせいじゃない」

その手を解くように煌生の手の平が包む。その温かさに、波打つ胸が穏やかになってゆく。

「私、先輩に釣り合うようになりたくて、頑張ってみたんですけど」
「え」
「宿泊研修でも、皆と上手く喋れなくて」
「…うん」

ぽんぽんと乗せるように頭を撫でる。その大きな手に安心したように、凛子の口調が少し明るさを取り戻す。

「あっ、でも、佐々木君とは少しお話できました」
「ん?」
「2人きりだったので、一緒にフォークダンスを踊りませんか、って誘ってみたんです」
「んっ?」
「結局踊ってはくれなかったんですけど、湿布を貼ってくれました」
「んんん?うぅん…」

唸るように考え込む煌生に気付かず凛子は続ける。少しでも、頑張った成果を伝えたかったのだ。

「話してみて初めてその人の優しさを知る事もあるんですね!」

煌生先輩!私こんなに頑張りました!頑張って人と関わりました!

―だから、どうか、突き放さないで・・・。

「私にとって美麗ちゃん以外の他人は、受け入れてくれない存在だと思ってたけど、それは自分が受け入れてなかったせいなのかもしれません」
「そっかー…うん」
「大事な事に気付かせてくれて、ありがとうございます、煌生先輩」

正直、佐々木君って誰とか、2人きりってどうしてとか、湿布どこに貼ってもらったのとか。引っかかる事はたくさんあった。

「でも、りんごちゃんのこんな顔見れたからね、我慢するよ」
「え?」
「んーん?」
「?えへへ・・・」

彼女の笑顔に、胸がほわっと温まる。

「俺は何もしてないよ、りんごちゃんが頑張ったんだ。偉いね」

小さな子を褒めるみたいに、屈んで頭一つ分小さい彼女の顔をのぞき込む。
赤く、なると思ったら、ぱあっと顔を輝かせた。

「あ、と、特訓、再開ですか!?」

近付いた距離を、いつもの特訓と捉えたようだ。

「……そう、再開」

にこりと笑う煌生に、凛子はその至近距離で「ありがとうございますっ」と笑顔を見せる。今度は煌生の頬が赤くなりそうだった。

―くっそー。チューしてぇ。

勿論そんな欲望を微塵も感じさせない笑顔で彼は「頑張ろうね」と彼女のヒーローを演じてみせるのだった。