「そんな訳なんで、来週の月曜からこのペアで校内の美化活動お願いしまーす」

そう言って、いかにも美化委員会の委員長な風貌の、もやしに顔を描いたような3年の男子生徒が黒板を指す。
緊張のせいで何も聞いてなかった凛子には、そんな訳もどんな訳かも解らない。
黒板に一番大きく書かれた文字を見るに、校内美化のペアを決めていた事は間違いない。とすればその下に書かれている【月曜、柏田、飯島…】というのは当番表であろうと、慌ててノートに書き写していく。

「火曜、藤本、鈴木…と」

美麗とペアとして書かれていたのは、隣のクラスの鈴木という男子生徒だ。凛子は一度も話した事はないが、ハムスター系の可愛い顔がぼんやりと彼女の頭に浮かぶ。

「水曜、杉原、穂高…?」

見慣れた自分の苗字に並ぶ見た事のない名前。
知らない人とこれから毎週美化活動をしなければならない。そんな憂鬱を覚えながら、律儀に金曜までの当番を書き写した彼女は、ペンケースとノートをまとめて教室を出た。

「杉原凛子ちゃん」

否、出ようとした所で中から呼び止められ、びくりとその肩を揺らした。

名前を呼ばれた。そんな日常生活の些細なイベントも、凛子のノミのような、ともすればミジンコのような心臓を大きく揺らすには、充分な要因となるのだ。しかも、男の声だ。凛子の脳裏に、赤い頬をからかい笑う男の子達の姿が蘇る。

「あれー?杉原さん?」

次は真後ろからしたその声。さあ、もう逃げ場はない。

「は、い…」

小さく、答えながら振り向く。俯いた視線の先には2年生である事を示す緑のラインが入った上靴。それに恐れ戦きながらも凛子はゆっくりと視線を持ち上げる。