水曜日の放課後。勉強道具を鞄に詰めながら、凛子は深く息を吸った。
「どしたの凛子、何か気合い入ってる?」
親友に指摘され、思わず握っていたその拳を慌てて緩める。
「違うの美麗ちゃんっ。ほら、えーと、あ!今日美化委員だから」
その言葉に美麗の眉間にシワが寄る。
「そういえば煌生先輩は大丈夫なの?変な事されてない?意地悪されてない?脅されたり」
「してない、してないよ!」
「ほんと…?」
「本当!」
何故そんなに疑うのだろうか。凛子は疑問を感じながらも、今日の昼に届いたメッセージを読み返す。
『放課後迎えに行くね』
実に二週間ぶりだった。緊張か何なのかわからないドキドキが収まらないまま放課後になっていた。そう、緊張は確かにしていた。
しかし最後に会った時、折角の特訓の甲斐もなく自分が成長しないばっかりに先輩に呆れられてしまったのだと思い込んでいる凛子。
今日は少しでも赤面症を克服した所を見せなければ。そんな意気込みもあった。
「杉原さーん」
「はいっ!」
遠くから名前を呼ばれ振り返ると、扉の手前にクラスメイトと、片手を上げて笑う煌生の姿。
「あ…」
胸の底の方がもやっとした。
いつもなら大声で「りんごちゃん!」って手を振るのに何故。
―なんて、煌生先輩相手に何を図々しい事を!
小さくかぶりを振って扉へと向かう。
「じゃあまた明日ね、美麗ちゃん!」
「あ!…うん、頑張ってね」
今日こそ赤くならない。赤く・・・。
「久しぶり、りんごちゃん」
何でこの人の声は、こんなにも甘く鼓膜に響くのか。
「おひ、さしぶりです」
きっともう赤い。