「さ、さささ佐々木君!」

肩にジャージをかけた佐々木が玄関に座り込む凛子を見下ろすように立っていた。

「何してんのこんなとこで」
「え、さ、ささ佐々木君こそ」
「…俺は寒いから部屋にジャージ取りに」
「ああ…」

沈黙がおりる。凛子は顔が赤いのがバレないように逸らす事で頭が一杯だった。

―バレたら、勘違いされるかも、気持ち悪がられるかも、引かれるかも。違うんです、これは赤面症なんです、自分じゃどうしようもないんです、ごめんなさいごめんなさい。

「で?」
「へ」
「杉原さんは何でここに?」
「あー、と、何でも、ないんです、けど」
「ふぅん。じゃあこれいらない?」

そう言う佐々木の手にあるのは湿布だ。

「な、んで…」
「さっき転んだ時、たまたま見てた」
「たま、たま…ぶぇっくし!」
「えぇー…」

驚きの表情から一変、盛大なくしゃみをする凛子に呆れた顔をしながらも、佐々木は自身の肩からジャージを取ると、それを震える肩に掛けた。そして彼女の前に膝をつくと、湿布のフィルムをはがす。

「あ、じっ、自分で」
「いーから、足」

何故、いきなり彼がこんなふうにしてくれるのか、検討もつかない凛子は、言われるがまま靴を脱いで靴下を捲ると赤く腫れた足首を差し出す。それをそっと持ち上げるように手を添えながら、佐々木がぽつりと話し出す。

「受験の時、俺に教室の場所聞こうとしたでしょ」
「へ。…あぁ!」

凛子の脳裏に、あの日の事が蘇る。

受験の日、体育館で入試の説明を受けて、いざ教室に向かおうとしたら、美麗はおろか自分の学校の列からはぐれてしまったのだ。その時たまたま見つけた他校の男子2人に、勇気を振り絞って声をかけた事があった。

「あれ!佐々木君だったんだ!」
「…あの時」

あの時、告白だと冷やかす友人を引きずるように去っていった彼。

「助けてやれなかったから…」