凛子と仲良くしているからと言って、他に友達がいない訳ではなく、むしろ美人の割にはさばけた性格の彼女は同性からも人気がある。そんな彼女と友人である事を凛子はいつも誇りに思っていた。
それと同時に、申し訳なくも思う。美麗と一緒にいたい人は他にも沢山いる。しかし凛子の人見知りを気遣って、普段は大勢のグループには属さずいてくれる。
『それぞれ友達でいるのは楽しいんだけど、群れたりするの好きじゃないからいいの』と美麗は言ってくれるが、凛子はそれを負い目に感じていた。自分がもっと明るい人間だったら。自分が赤面症じゃなかったら。

「ごめんね美麗ちゃん」

嘘ついちゃって。私、こんなで。ごめんね。



 広場からそっと離れて、建物の反対側にある宿泊施設の玄関の段差に腰掛ける。
学校の下駄箱のようになっているそこは、誰もおらず静かだった。裏から少しフォークダンスの音楽と皆のはしゃぐ声が聞こえてきて、何だか変な感じだ。

「先輩は今頃、学校で肝試し…ふふっ」

2年生の宿泊研修は学校で行われる。夜に肝試しが開催されると言って、やだやだとゴネていた姿を思い出し、凛子の口元がふっと緩む。
特訓を始めてから知った事。彼には意外と弱点が多く存在する。お化けとキュウリ、それから鬼ごっこ。鬼ごっこは遊びなのに本気で追われてる気分になるから嫌いなのだそうだ。そう語った時の煌生の表情は暗く翳っていて、何か相当怖い鬼に追いかけられたのかな、と凛子は思ったが、それはあえて触れなかった。

「先輩、大丈夫かな」

今日も大嫌いなお化けで怖い思いをしていなければいい。
弱い部分がある先輩も何だか可愛いけれど、やっぱり優しく笑う先輩が一番良い。

「優しく…」

かと思ったら次の瞬間にはとんでもない色香を放っていて。捕らえられてしまいそうな瞳に、真っ赤な自分が映って…。

「杉原さん」
「はうあ!」

いきなり後ろから声を掛けられ、驚いて振り返る。