そもそも自分でさえ自分が嫌になるのだ。先輩がいくら博愛者でも、面倒臭くなってしまうに決まっている。
まさかその彼に、近付く事も恐れる程好かれているとも知らず、凛子をネガティブな思考が支配する。

「杉原さんっ!」

ぼーっとしていた意識が、その大きな声によって浮上した瞬間。

「きゃあ!」
「わっ」

目の前から走ってきた女子生徒にぶつかる。重なるように倒れた時、凛子の右足首に痛みが走った。

「ごめんね!大丈夫!?」
「だからお前走るなって言ったろ!えーと、杉原さん?大丈夫だった?」

申し訳なさそうにするカップルと思しき2人に、凛子はぎこちなくも笑いかける。

「だ、大丈夫、です。こちらこそぼーっとしてて。すみません」

その言葉にぺこぺこと頭を下げて去っていく2人。凛子もぱぱっとお尻を払って立ち上がる。

「っつ」

捻ったらしい足首が、じわじわと痛む。そこへ笑顔の美麗が駆け寄ってくる。

「やっと見つけた凛子!今からフォークダンスだってよ」

見れば、いくつも木のテーブルが並ぶ広場の中央に、人が集まっている。さっきの2人もそれで急いでいたのだろう。

「ほら、行こ」
「あ、ごめん美麗ちゃん。私、あの、えーと、先生に呼ばれてて。…片付けのお手伝い」
「そうなの?じゃあ私も一緒に」
「いっ、いいのいいの!1人で大丈夫!」
「でも」
「すぐに終わらせてくるから、美麗ちゃん他の子達と先踊ってて」

そう言う凛子の視線の先には、「美麗まだー?」と彼女の名前を呼ぶ数人のクラスメイト。