「大体席で班決めるとかナンセンスよ!凛子の隣が私じゃなくて佐々木なのも気に入らないわ」
「でっ、でも佐々木君て実は優しいと思う!」
「えー?」
「授業中たまにね、ノートの隅っこに猫の絵を描いてたりするの」

猫好きの人に悪い人はいないよ!と力説する凛子に、美麗はまだしかめっ面だ。

「それに!今日もね、一緒に野菜を切ったんだけど、佐々木君とっても皮剥きが上手なの!きっとお家でもちゃんとお手伝いしてるんじゃ」
「ちょっ、杉原さん!」

ジャージの腕部分を引っ張られて後ろを向くと、凛子を睨むように息を切らせた佐々木が立っていた。

「さささ、佐々木君!」

思わぬ距離に、一気に顔が赤くなる。(凛子なりに)褒めちぎった直後なだけに、かなり気恥ずかしい。
だがそれよりも恥ずかしい思いをしたのは佐々木である事を彼女は知らない。

「何言って」
「佐々木ってば意外と可愛いとこあるんじゃない」
「ほんとうるさいから藤本」
「あははは、可愛いー」
「まじでやめろ」
「あははははー」

そして、この宿泊研修で【佐々木のギャップ萌え】が一気に拡散した事を、彼は(まだ)知らない。



「あ、あの、これも…」
「あ、食器まだあったんだ。ありがと」
「いっ、いいいえ」
「あ、杉原さん。手空いてたらこれ戻してきてもらっていい?」

食後、班員皆で片付けをしていると、余った炭の袋を指さされた。

「あっ、うん、わかった!」

煌生との特訓の甲斐虚しく(と言ってもただのセクハラなのだから仕方ないのだが)、まだ人と話すことには慣れない。

「おぅ、意外と重い…」

よろよろと炭の袋を運びながら、先日の事を思い返す。

「私がいつまで経ってもこんなだから、嫌気がさしたのかな」