網の上に置かれた鍋の中身をかき混ぜながら、凛子は何度目になるかわからない溜息を漏らす。
もう一週間彼に会っていない。最後に会った時、別れ際の怒っているような冷たい態度。

『しばらく特訓はお休みにしようか』

突き放すような言葉も。どうすれば良いのかわからないのは、これまで他人との関わり合いから逃げて生きてきた代償なのだろう。


「あー美味しそう!やっぱ外で食べるならカレーが一番だよねぇ!」

サラダが盛られた大皿を抱えた美麗が、横から鍋を覗く。その声にはっとして顔を上げると、他の班員も戻ってきたようで、たちこめるその香りに表情を綻ばせている。

「全員揃ったし食べようか」
「そうだね、他の班もう食べてる」
「じゃあ盛っちゃうね」

美麗の一言でそれぞれが手伝い始める。その中で1人、座ったままの人物を美麗が目ざとく見つける。

「ちょっと!佐々木も何か手伝ってよ」
「何かって?」
「カレー盛るとか」
「もう盛ってるじゃん」

そう言って指さした先には、びくりと肩を上げる凛子。
涼しい顔の佐々木とわなわなする美麗。

「じゃあテーブル拭いて!」
「何で?」
「っ!コレで!」

そう言って投げつけたのは、今まさに鍋の蓋に乗っていた布巾だ。

「っあっちぃ!」

咄嗟に掴んだ手をばっと離して美麗を睨みつける佐々木。しかし言葉を発する事はなく、テーブルに転がる布巾を掴むと、くるりと水洗い場の方へ歩いていく。

「み、美麗ちゃん」
「ぐあー!ほんとムカつくわ佐々木康生」
「あわわ、綺麗な顔が台無しになるよー」
「折角の宿泊研修なのに、佐々木と同じ班なんて!」

凛子が宥めるも、親友の怒りは収まらない。