「本当に…ありがとうございます。私なんかの為にこうして克服の手助けをして下さって…。何とお礼すればいいのか…」

「ふふっ。いーのいーの。可愛いり…後輩の為だから」

感激していた。先輩は見た目の通り、博愛に満ちた心優しいお方なのだと。自分のようなはみ出し者の行く末をも案じ手を差し伸べてくれる、崇高なお心をお持ちなのだと。

「穂高先輩の寛大な善意にお応えできるよう、頑張ります…!」
「んー、うん?」

多少煌生の思い描いていたシナリオとは違う方向に進んでいたが、この時彼はその事に気付かなかい程浮かれていた。彼女の前ではいつも飄々と微笑んで見せていたが、本当はめちゃくちゃ、浮かれていた。
その事にさえこの時はまだ気付いていなかったのだけれど。



 特訓と称した煌生のセクハラは順調に進んでいた。

「この辺はどう?」
「だ、大丈夫です…」
「じゃあ、ここ」
「ひぃ、だっ、大丈夫…です」
「ほんと?じゃあここ」

どんどん近付いてくる煌生の顔に、赤面女子・凛子はみるみる真っ赤になってゆく。

昼休み、丁度ご飯を食べ終わった頃を見計らって、つい先日赤面症克服特訓の為と言って手に入れたラインのIDを活用し、彼女をこの無人の空き教室へと誘い込む事に成功した煌生。
教室の後ろに乱雑に寄せられた机と椅子を2組だけ引っ張り出して座ると、煌生はおもむろに凛子の方へ顔を向け、特訓と称した煌生しか得をしない接近を試みたのだった。

「もっ、もう無理…ですぅ」

ぷしゅーっと、膨らませた風船がしぼむように机に伏せる凛子。ブラウスから覗く首筋まで赤い。

「でも、確実に成長してるよね。最初は1メートル離れて目を合わせるだけでへにょへにょだったじゃない」
「え、ええ、そう・・・そうですよねっ!」

煌生の言葉に自分の微かな成長を実感したのか、両手で弱々しい握り拳を作って目を輝かせる。
可愛らしい。彼女のこんな姿を知る男は自分だけなのかと思うと、煌生の優越感は満ちてゆく。
でも次の瞬間には更なる欲が湧いて出るのだから恋って怖い。