「え…」
「私のこれは、えっと、赤面症というものでして、相手が誰だとかに左右されるものではなくて」
煌生の本心など気付きもしない凛子は、申し訳なさそうに続ける。
「なのでえっと、とにかく穂高先輩を好きだからとかで赤くなっている訳ではないのでどうかお気になさらないで下さい!」
えらく見当違いな、一息で告げられた謝罪に、煌生は面食らう。そして、人生で恐らく初めて味わう敗北だった。
彼が、自身の容姿が他人より優れているという事に気付いたのは、随分と幼い頃だった。
近所の、いつも自分にだけお菓子をくれるお姉さん(と言っても今考えたら中学生くらい)が、ある日突然、当時まだ小学生になったばかりの彼にいたずらをしようとした事があった。
その時は彼女の母親の帰宅により事無きを得たが、それからも幾度か、中学2年生の後半に身長の急成長を迎えるまで、似たような目に遭ってきた。
そんな出来事たちは、警戒心と共に、【自分の顔は他人に特別な感情を持たれ易い】のだという事を幼い煌生の心に植え付けた。
事実、彼の周りには女の子が絶えなかったし、こんなにも明らかな好意を示して食いつかなかった子はいない。
いや、いなかった。今日まで。
「私の体質のせいでお気を悪くしてしまって、すみません…」
心底申し訳なさそうに斜め上な謝罪を続ける凛子。その下げた頭、柔らかそうな栗毛を見下ろしながら、いつか彼女が自分だけに可愛らしく頬を染めてくれる姿を想像する。
―うん。やっぱり、いいな。
煌生はゆるやかに口端を上げる。
「そっか赤面症かぁ…」
そんな事は声をかける前から知っていたくせに、うーん、とわざとらしく悩むそぶりをする煌生。
真っ赤になるのが赤面症のせいなのは知っていたし、そのせいで他人とあまり関わりを持たない事も知っている。ついでに言うなら誕生日が7月15日で、6つ歳が離れた兄がいるのも知っている。
彼女と同じえんじのラインが入った上靴を履いた女子達に聞いたら、ひとしきりきゃあきゃあと叫んだ後、教えてくれたのだ。
隠れてこそこそ調べるなんて卑怯だけど、計画を練るためには必要な事でしょ?なんて。
―ただ彼女の事、少しでも知りたかっただけかも…。
恋とは、つまりそういう事なのか。
誰よりも、自分が一番君の事を知っていたい。
「じゃあさ、それ克服しよう!俺手伝うから」
君がこんなに可愛い事、誰にも知られたくない。
「克、服…?」
「そう、俺と一緒に」
君の一番近くに行きたい。
できるなら、君を独り占めにしたい。
「俺が絶対に治してあげる」
愚かしいほど、ただ真っ直ぐな独占欲と。その中に、埋もれながらも輝く純情と。
それだけ、綺麗なガラスケースに入れたなら、誰にも渡さない。誰にも見せない。
それが穂高煌生、16歳にして初めての恋だった。
「私のこれは、えっと、赤面症というものでして、相手が誰だとかに左右されるものではなくて」
煌生の本心など気付きもしない凛子は、申し訳なさそうに続ける。
「なのでえっと、とにかく穂高先輩を好きだからとかで赤くなっている訳ではないのでどうかお気になさらないで下さい!」
えらく見当違いな、一息で告げられた謝罪に、煌生は面食らう。そして、人生で恐らく初めて味わう敗北だった。
彼が、自身の容姿が他人より優れているという事に気付いたのは、随分と幼い頃だった。
近所の、いつも自分にだけお菓子をくれるお姉さん(と言っても今考えたら中学生くらい)が、ある日突然、当時まだ小学生になったばかりの彼にいたずらをしようとした事があった。
その時は彼女の母親の帰宅により事無きを得たが、それからも幾度か、中学2年生の後半に身長の急成長を迎えるまで、似たような目に遭ってきた。
そんな出来事たちは、警戒心と共に、【自分の顔は他人に特別な感情を持たれ易い】のだという事を幼い煌生の心に植え付けた。
事実、彼の周りには女の子が絶えなかったし、こんなにも明らかな好意を示して食いつかなかった子はいない。
いや、いなかった。今日まで。
「私の体質のせいでお気を悪くしてしまって、すみません…」
心底申し訳なさそうに斜め上な謝罪を続ける凛子。その下げた頭、柔らかそうな栗毛を見下ろしながら、いつか彼女が自分だけに可愛らしく頬を染めてくれる姿を想像する。
―うん。やっぱり、いいな。
煌生はゆるやかに口端を上げる。
「そっか赤面症かぁ…」
そんな事は声をかける前から知っていたくせに、うーん、とわざとらしく悩むそぶりをする煌生。
真っ赤になるのが赤面症のせいなのは知っていたし、そのせいで他人とあまり関わりを持たない事も知っている。ついでに言うなら誕生日が7月15日で、6つ歳が離れた兄がいるのも知っている。
彼女と同じえんじのラインが入った上靴を履いた女子達に聞いたら、ひとしきりきゃあきゃあと叫んだ後、教えてくれたのだ。
隠れてこそこそ調べるなんて卑怯だけど、計画を練るためには必要な事でしょ?なんて。
―ただ彼女の事、少しでも知りたかっただけかも…。
恋とは、つまりそういう事なのか。
誰よりも、自分が一番君の事を知っていたい。
「じゃあさ、それ克服しよう!俺手伝うから」
君がこんなに可愛い事、誰にも知られたくない。
「克、服…?」
「そう、俺と一緒に」
君の一番近くに行きたい。
できるなら、君を独り占めにしたい。
「俺が絶対に治してあげる」
愚かしいほど、ただ真っ直ぐな独占欲と。その中に、埋もれながらも輝く純情と。
それだけ、綺麗なガラスケースに入れたなら、誰にも渡さない。誰にも見せない。
それが穂高煌生、16歳にして初めての恋だった。
