彼について、凛子の頭では理解しきれない事ばかりだ。そんなもので頭をいっぱいにしていると。

「りんごちゃんっ、それ違う」

がしっと力強い腕に掴まれた。

「え、あっ」
「それはお花だよー」
「すみま、せん・・・」
「あぶねー」

2人してほっと息をついて、その間にある互いの手に視線が移る。軍手をはめた煌生の手が、凛子の手首にぐるりと回されていたのだ。

「あっ、ごめん」
「い、いえ…」
「汚れてない?」
「大丈夫、です」

凛子は例に漏れず真っ赤であるし、煌生に至っては、彼女の手首の余りの細さに色んな意味でドキドキしていた。

―細かった。壊れそう。壊したくない。あぁでもどうせなら、俺の手で…壊したい。

こんなにも複雑なこんな感情を、【恋】なんて一言にして表すなんて、昔の人って何て画期的な発想力なんだろう。

「…それ、俺だけになんない?」
「それ…?」
「それ」
「え、あっ」
「これ」

再び触れた頬はさっきよりずっと熱を帯びていて、まるで誘われるようにするりと手の平を這わせた。

「赤くなんの、俺だけにしない?」

煌生はわざと濡れた目で、艶っぽい声で、じっとりとした空気を作り上げる。
彼の諸々は、こんな風に計算し尽くし生成されている事を、凛子は勿論、誰も知らない。
その計算は今までずっと完璧で、例え恋という甘酸っぱいものに目覚めても、揺らぎはしない。

「ごめんなさい、それは、無理です…」

揺らぎはしない。筈だった。