2人の担当は、中庭の掃除だった。そこにある花壇の手入れがまず最初の仕事だ。
校庭に面する校舎の壁に沿って、いつ誰が植えたのか、小さい花を咲かせたツツジと色とりどりのパンジーが並んでいた。
コンクリートで出来た花壇は幅10メートル程の意外と広いものだった。

「こんなでかい花壇あったんだ」
「綺麗ですね」

それを眺めていた煌生が隣に視線を移すと、大きな瞳をくりっとさせて嬉しそうにする凛子がいた。

「花好きなの?」
「あ、はい、好きというかあの、母が庭でいくつも育ててるので、あの・・・好きです、花」
「いいねぇ、女の子だね」

尻すぼみに喋る彼女に目を細める。
好きです、という響きにとくっと鳴る心臓を、心地よく思いながら煌生は仕掛ける。

「ほら、ほっぺもピンクで。すごく女の子って感じ」
「ひ、あ」

ふっと触れた指先に真っ赤になって反応する姿は、煌生を興奮させた。

-可愛い。ぎゅっとしたい。めちゃくちゃに、掻き混ぜたい。

そんなどろりとした欲求を抑え込んで、相対するように爽やかな笑顔を見せる。

「赤い。そういえばこの間も真っ赤だったね」
「あ・・・あの、この間は、すみません」
「ふ。俺こそいきなりごめんね」
「いえっ」
「あれはね、俺の願望」
「え?」
「だから、気にしないで」

にっこりと微笑む煌生を見つめる凛子の顔は呆けている。いまいち彼の言葉を理解できていないようだ。

「よぅし、始めよっか」
「あっ!は、はい!」
「まずはー、雑草がすごいから抜いちゃおう」
「はいっ」

仕切り直すように腕捲りをする煌生に倣って、シャツの袖をくるりと捲る。2人それぞれゴミ袋を持って、両端から雑草を抜いていく事になった。
凛子は反対側で同じようにしている煌生をちらりと盗み見た。
何であんな簡単そうにコミュニケーションが取れるんだろう。何であんなに近付いてくるんだろう。
・・・願望って、どういう意味だろう。