水曜日のホームルーム直後、彼は本当にやって来た。

「りーんーごちゃん」

整った顔を綺麗に崩して笑う様はさながらアイドルのようで。

「あーっ!煌生先輩っ」
「キャー」

コンサート会場かのごとく女子の黄色い声が放課後の教室の空気を揺らす。しかし、声のする方に目を向ける凛子の顔に浮かぶのは戸惑い。というよりも戸惑いしか浮かばないと言った方が正しい。
数日前彼がこの教室から去ったあと、凛子は大変な目に遭っていた。


『ねぇ、杉原さんって煌生先輩とどういう関係!?』
『今何話してたの!?』
『煌生先輩のライン教えて!』

入学以来話した事もないクラスメイト達から質問攻めに遭い。(関係もラインも知りません。初対面です)


『どれどれ?』
『あれだよ、煌生先輩が教室まで会いに来たっていう子』
『杉本さんだっけ』
『え、あれ!?地味!』

翌日、他クラスの子から陰口を囁かれ。(地味なのわかってます。あと、杉原です…)


親友である美麗にもあの後事情を聞かれ、一部始終を話すと、『何それチャラい!気を付けてよ凛子、ただでさえ男子苦手なんだから。あんな人に目つけられたら・・・』とは言いつつも、『初対面で俺の事好きなのって聞けるのはさすが煌生先輩よね』と感心していた。



「ほ、ほんとに、来た・・・」
「来たね、本当に」

今も、ほあ~と感嘆の声を漏らして扉を見つめている。
そんな2人の視線の先、煌生は手をひらひらと翳してもう一度凛子の名前を呼ぶ。

「りんごちゃん」
「い、今、行きます・・・」
「凛子、本当に大丈夫?」

立ち上がった凛子を心配顔の美麗が止める。コミュニケーションが誰よりも苦手な親友を心配していた。
よりにもよって、学校一の人気者である穂高煌生と2人で校内美化活動など。

「やっぱり先生に言って私と凛子でペアにしてもらおう?」
「美麗ちゃ」
「ダーメだよ。力仕事もあるから男女ペアにしたって先生が言ってたでしょ?」
「!」