彼女はどうやら団体行動からはぐれたらしく、同じく(多分こっちは故意だけど)はぐれて歩いている彼等に道を聞きたいのだろう。
だけどさっきから、渡り廊下の手すりにもたれて話す彼等の数メートル後ろで口をパクパクさせるだけ。

「てか試験何時から?」
「もうすぐ始まる。教室行くぞ」
「ねぇ佐々木、俺が落ちたらさ」
「あ、あああのっ」

動き出し始めた彼等に、ようやく彼女の口から音が発せられた。

「え?」
「あ、あの、あの、えぇと…」

2人が振り返る。俯く彼女の声は、どんどん小さくなる。

-可愛い…。

赤く染まる頬と、スカートの裾をぎゅっと握りしめる小さな白い手の、絶妙なコントラスト。煌生は無意識に下唇を舐めた。

「え、もしかして…」

その時、いかにも頭の悪そうな片割れが、口に手を当て下衆い笑いを浮かべた。

「告白ぅ?え、どっち?こっち?」

そう言って自分ともう一人の興味の無さそうな顔をした友人を指す。
彼女は目を丸くして、すぐに首を横に振った。

「ち、違いますっ。あの、私…」
「え!俺!?」
「あの、違」
「いーから、行くぞ」

何だか色々と勘違いを続ける友人を嗜めるように、黙っていた男子生徒が歩き出す。

「え!待ってよ佐々木ー!ごめん、また後でね!」
「あっ…」

待って、という彼女の言葉は、かろうじて煌生が口の動きで読み取れただけだった。
ぎゅう。スカートの裾を掴む手に力が篭る。

「受験の教室、どこですか…」

もう誰もいない廊下の先に向かって彼女がぽつりと呟く。

ただそれだけのことが言いたかったのに。言えなかった。
恥ずかしがり屋の真っ赤な林檎。俺は見てたよ。

…俺が、見つけた。