投げかけられた質問に固まる彼女は、杉原凛子。あるコンプレックスを抱えたこの物語の主人公である。勉強はそこそこ、運動はからっきし、人と話す事が大の苦手。

「な、な…」

何で。というのも全てこのせい。

「だって、真っ赤だよ?顔」

赤面症。
それこそが彼女の青春を妨害し続ける、最大のコンプレックスの名。



 時間を遡ること一時間前。帰りのホームルームを終えた凛子の元へ、小学校からの親友、藤本美麗が駆け寄る。
赤面症のせいで完全なるコミュ障、他人とまともに会話が出来ない上に、小心かつ鈍臭い凛子と付き合う数少ない、むしろ唯一の友人である。

「ごめん凛子!これから弟の迎え行かないとだから委員会行けないんだ!」

名を体で表すようなスレンダーで美人の美麗は、凛子の机の前に立ち、両手を合わせて頭を下げる。
おどおどした自分とは真逆、ハキハキと自分の意見を口にし行動出来る彼女に、凛子はいつも憧れる。そしてそんな美麗には、年の離れた幼稚園に通う弟がいる。共働きの両親に代わって、こうしてたまにお迎えに行ったり、良く面倒を見ていた。
そんな立派な彼女を咎める理由など勿論なく、凛子は笑顔で頷いた。

「全然大丈夫だよ!私がしっかり話聞いてくるね」

胸をぽんと叩くその姿に、美麗は一層と不安気な表情を見せる。

「本当に大丈夫?知らない人ばっかだし…」
「大丈夫だってば。それよりほら、早く怜央君のお迎え行ってあげて」

人見知りな自分を心配する親友を遮って、その背中をぽんと押す。優しさに感謝しながら。

「本当にごめんね!」

何度も振り返りながら教室を出ていく姿を手を振り見送ってから、凛子はふぅと溜息をついた。

「さて…」

どうしたものか。皆にはきっとたかが委員会だろうが、凛子にとっては違う。入学式から1ヶ月経ち、既に一度、委員会活動に出席したが、自分は美麗の隣にただ縮こまって座っていただけである。
一年生は前に出たり発言する事はほぼ無いとはいえ、知ってる人が誰もいないあの空間は、居るだけで凛子には充分な試練なのだ。
しかし美麗が不在の今日、このクラスの美化委員は自分一人。

「い、行かねば…!」

かくして凛子は戦場に望むような顔つきで、美化委員会の集合場所へと向かうのだった。
一応伝えておこう、これは恋愛小説である。