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「次に帰ってくるのは、いつになるかしらねえ」


携帯の画面から顔を上げ、運転席の母親を見やる。車は信号待ちで緩やかに停車した。

昨日のことは、願望が見せた夢だったのではないか。そう思ってしまうほど、呆気なく帰る時間になってしまった。私の〝今〟の居場所へ、と。

駅まで送ってくれている母の独り言のような質問にどう答えようかと思案する。フロントガラスから見える空は、今日もいい天気だ。


「……多分、そんなにしないうちに帰ると思う」

「え? どうして?」

「どうしてって……」


ぼそっと呟いた言葉が思いっきり拾われた。案外しつこく理由を尋ねられて、思わず口ごもる。

しばらくの後、何かに感づいたようにうんうんと頷かれた。


「へえ、そう。そうなのねえ」

「お母さん、私何も言ってない」


何が〝そう〟なのだ。勝手に納得して笑っている母に訝しげな視線を送ってみたが、無視された。


「言わなくても分かるわよ。……普段携帯なんてそこら辺に放っているあなたが、そんなに熱心に何してるのかしらね」

「え?! いや、別に」


ネット見てただけだし、と努めて冷静に言うも、全く聞く耳を持たない母は機嫌よく鼻歌を歌い始めた。