私は当時のことを思い出してげんなりした。今ならもう少しまともな対応ができただろうが、当時は十代半ばの多感な時期。毎日のように友人や顔見知りに冷やかされ続けて、私の気持ちは完全にささくれ立ってしまったのだった。
「あの時は焦ったな……せっかく佳奈と付き合えることになったのに、1か月くらい口聞いて貰えなくてさ」
「……」
樹が悪い訳ではなかったのに、完全に樹に八つ当たりしていた当時のことをほじくり返されて、ばつの悪い私は黙り込んでしまった。
樹はそれでも、楽しそうに手を差し出してくる。いつの間にそんな紳士的な行動ができるようになったのだろうと戸惑いつつ手を重ねると、引っ張り立ち上がらせてくれた。
ーー樹の手は、昔と変わらず優しい。
「あ、ありがと……」
立ち上がらせてくれたことにお礼を言い、さり気なく手を外そうとしたが、ぎゅっと握られてしまった。引っ張ってもびくともしない。
「ちょっと、樹」
「そろそろ帰ろう。佳奈の手、冷たくなってる」
樹が私の抗議を無視して歩き出してしまったため、私たちは手を繋いだ状態になってしまった。
「……」
石段を降りながら、私は隣を歩く樹の様子を窺っていた。前に付き合っていた頃は手を繋いだことなんてほとんどなかったというのに、一体どういう心境の変化だろう。
私の視線に気付いた樹は、こちらに視線を向けた。