「喜んで」

「……なに笑ってるのよ」


受け入れられて嬉しかったけれど、笑っている樹に気付き、じろりと睨む。人の告白を何だと思っているのだ。


「ごめんごめん。このタイミングでヒグラシ鳴かせるって、さすが佳奈」


私も何だか気が抜けて、鳴き声のする方を見た。向こうにある木にでも留まっているのだろう。


「別に私が鳴かせた訳じゃないし! 向こうが勝手に鳴き始めたんだから」

「そうだな。きっと佳奈のこと褒めてくれたんだよ。……〝よく言えました〟って」


そう言って、樹は私の頭をポンと撫でた。ふわりと頭のてっぺんが温かくなり、心地良い。樹も向こうの木の方を見ながら、懐かしむように言う。


「佳奈ってさ、ヒグラシの鳴き声みたいな名前だよな。ーー昔俺がそう言ったの、覚えてるか?」

「うん」


もちろん覚えている。いつかの樹が無邪気に言った言葉だ。
ただの思いつきに違いないのに、この言葉にどれだけ縛られて生きてきただろう。夏になりヒグラシが鳴くと樹のことばかり思い出してしまうから、いつからか夏が嫌いになっていた。


「気恥ずかしくて言えなかったけど、続きがあるんだ」

「続き?」