ーー樹の言う通りだ。
年々〝あっという間〟という言葉が口癖のようになってきている。もう怖じ気付いている場合ではなく、向き合っていかなければならない時だと私も気付いていた。


「何もせずに怖がっているより、まずは一歩飛び込んでみろよ。意外と居心地いいかもしれないしさ?」

ーー俺の隣とか。佳奈限定で絶賛募集中だけど?


耳元で囁かれるように告げられると、くすぐったくて思わず身を捩ってしまった。

これはきっと、樹なりの謝罪と応援だ。
一度離れてしまったからこそ、今度こそすれ違わずに歩幅を合わせて進んでいけるはず。……そう、背中を押してくれている。

私は、樹を再び見上げて、目を合わせて思いを伝えることにした。ぎゅっと拳を握り、弱気な自分に別れを告げるために。


「分かった。……私、今度は逃げない。ちゃんと、樹と向き合う、から」

「うん」


樹の目尻が優しく下がる。私がこれから言おうとしている一世一代級の告白を、茶化さずに聞いてくれる姿勢がまた、とてつもなく恥ずかしい。その目に続きを促され、思っていたよりもずっと声が震えた。


「もう一度、私と、付き合ってください」


ーー私が言い終わるか終わらないかの絶妙なタイミングで、ヒグラシの鳴き声が聞こえてきた。