「嘘は、佳奈のことを〝諦める〟って言ったこと。……ここまで地道に努力してきたってのに、潔く諦める訳ないだろ」


ずっと忘れられなかった人から正直に気持ちを伝えられて、舞い上がらないはずがなかった。私が樹のことを思っていた間、樹も私のことを考えてくれていたことが、単純に嬉しい。


「佳奈が帰ってくるって聞いて、どれだけ俺が心待ちにしていたか」

「樹、知ってたの?!」

「そりゃ、もちろん。佳奈の母さんに前から聞いてたし」

「お母さん……」


そうだった。母は樹が配達に来る度にお喋りばかりしているのだったと、思わずため息が零れた。そんな私の様子を見て笑いながら、樹はあやすように語りかけてくる。


「佳奈が不安に思ってることは、きっと俺も不安だよ」

「樹が?」


いつも全てを受け入れて生きているように見えていたのに、と目を丸くすると、樹はひとつ頷いた。


「俺も、将来のことを考えると恐ろしいよ。今だって気付けばもう二十代半ばだし、子どもの頃と違って一日があっという間に終わっていくし。その年の祭りで全て出し切ってもすぐに次の年になってしまう。
……大人になるってさ、想像していたより即断即決していかないと全然時間が足りないんだなって」


はは、と樹は自虐的に笑った。