「んー、美味し」


りんご飴をかじるのは、いつ振りだろう。飴とりんごがカリリと良い音を立て、甘い香りが広がった。小さい頃、親からは「歩きながら食べるのは、行儀が悪いからやめなさい」とよく言われたものだけれど、祭りの時だけは特別だとりんご飴を買ってくれた。あの頃から変わらない味に、何故かほっとする。

私は出店でいくつか買い込んだ後、そのまま家路へ着いた。街灯の提灯がぼんやりと私の顔を照らしている。先ほどの光景は、夢だったのではないかと思うほど、辺りは静かだ。


ーー樹、格好良かったな。


あれから数曲演奏した後、横町の屋台はゆったりと進んでいった。テンポが速い曲の時は全身を使って激しく、ゆっくり聞かせる曲の時は余韻を持たせて伸びやかに、樹の笛の音は感情豊かだった。いつの間に、あんなに上手になったのかと驚くほどに。

樹は、私が見ていなかった7年の間に随分と頼もしくなった。会話した時の態度も、まとう雰囲気も何もかも。


遠ざかり、遥か後ろでかすかに聞こえるお囃子を聞きながら歩いていると、ひゅるりと風が吹いた。今夜も確かに涼しいけれど、先ほどまでの人ごみと祭りの熱気で、気付けばパーカーの袖を捲ってしまっていたことに気付く。


「ーーお囃子、聞こえなくなっちゃった」


りんご飴を口に咥えたまま、いそいそと袖を元の位置に戻す。

樹が、お囃子のように遠ざかっていってしまう未来が頭をよぎり、祭りの後のもの悲しさと相まって無性に寂しくなった。