良くも悪くも、樹は地元に縛られている。仕事だって家業を継いで、この祭りからも逃げられない人生だ。樹にとって、笛は既に〝憧れ〟ではなく〝義務〟なのだ。後世に残していかなければならない地域の伝統行事は、その地に住む者に重く大きくのしかかる。

けれど樹は、そんなことをものともしない様子で、真剣に楽しそうに笛を吹く。まるで周りの人を、励ますように、煽るように。

その表情を見ているうちに分かってしまった。ーー私より先に大人になった樹は、とっくにそのことに気付いていたのだ、と。


たすき掛けした袂から覗く逞しくなった腕が視界に入ると、昨日の車の中でぶつかってしまったことを思い出してしまい、慌てて俯いた。きっと毎日酒の瓶が入ったケースを運んでいるうちに鍛えられたのだろう。

そんなことでも過ぎてしまった年月を感じる。昔と変わらないのはやっぱり私だけで、樹には完全に置いて行かれてしまったようだ。


ーー私が、いつまでも勘違いした子どもだったから。


小さく息を吐いて顔を上げると、一瞬だけ樹と目が合った気がした。