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「……若かったなあ、あの頃の自分」


歩いているうちに通りの街灯と街灯の間に提灯がぶら下がるようになった。そんな温もりを感じる灯りを見ていると、自然と甘酸っぱいようで少し苦い思い出がよみがえってきた。幼なじみのちょっとした変化に気付く度に、妙に意識してしまいまともに話せなくなったことも一度や二度ではない。


ーー私は何も変わらないのに、樹ばかり大人になっていく。


その思いは付き合い始めてからも変わらないどころか、むしろ加速していく一方で、私を再三苦しめることになった。お互いの物理的な距離は近付いたのに、心理的な距離はどんどん遠ざかる。

あんなに大好きだった祭りに行くことが年々辛くなってしまった私は、進学という切り札を使って逃げ出したようなものだ。外の世界に出れば、大人になれると信じていたから。

樹と別れて、遠い場所で進学して、そのまま就職して。恋人ができたこともあったけれど、長続きしたことがない。こんな可愛げの欠片もない私には、恋愛は向いていないのだと思い知らされることばかりだった。

昨日は聞かなかったけれど、樹に恋人はいるのだろうか。ひょっとしたらもう結婚も決まっていたりして。
もしかしたら今日が、樹の笛を聞く最後の日になるのかもしれないと思うと、胸がきゅ、と苦しくなった。