地元に残って家業を継ぐ予定の樹に黙って遠くの学校に進学を決めて、事後報告と同時に別れたいだなんて、自分は本当に勝手な人間だ。それなのに樹はひとつも恨み言を言わず『頑張れ』と送り出してくれた。

樹が本当は優しい人だということは、昔からよく知っている。これから社会に出て様々な出会いがあったとしても、私がいるせいで行動が起こせないのだとしたら、樹のために良くないことだと当時の私は考えるようになっていた。

好きだと言われて舞い上がっていたけれど、樹は幼なじみと付き合って後悔しているのではないか。何の取り柄もない、平凡で可愛げもない私の面倒を見続けることは苦痛でしかないはずだ。

距離を置いてお互い新しいスタートを切った方がいいと告げた私の意見を尊重してくれた樹は、どんな顔をしていただろう。霞がかかったように朧気だ。