「望くん」

「あ、夢」

「休日にしてごめんね」

「ううん、全然。どうせ休日でも店、開けてるし。あ、モデルさんと会っておく?」


言いながら望くんは私に近づく。


「あ、なんかいい匂いする」


長い指で私の結った髪をさらりと触って、ひと束摘むと目を閉じて鼻を近づける。


「これか」


この香水失敗したと思ったのに。

望くんが笑うから、考えてたことなんて簡単に覆る。


「好き?」

「うん、好きだよ」


決して私に向けられた言葉ではない、ってわかってるけど、この舞い上がる気持ちは、抑えなくてもいいですか?


「いつも夢はいい匂いするけどね」

「え、ほんと?」

「うん。夢はどんな服もどんな匂いも似合うもんね」


今日の服も似合ってる、と付け加えた望くんの顔を真っ直ぐに見られなかった。


「あれ、顔、赤いよ?」

「うっ、うるさい」

「あは、照れた?」

「……うん」


私が小さく返す前に、望くんは奥の部屋に入っていった。

私の意気地なし。