テスト用紙が前の席から後ろの席に向かって送られてくる。

いつもの梨木くんだったら、顔は正面を向いたままプリントだけを手渡していた。


だけど今日、彼は真横を向いて、軽くあたしの方に振り返った。


横顔を向けてきたことに驚いて、あたしはとっさに目線を下げる。


……別に、目が合ったわけじゃないのに。


「どうもな、起こしてくれて」

「べっつに。先生に頼まれただけだよ」


目線は下げたままだけど、印象を良くしたいがために自然と身に着いていた、即席の笑顔を作る。


少しだけ目線を上げると、梨木くんの喉仏が目に入った。


あたしは自分の口元に力が入っていたことに気づいた。

もしかしたら、変な笑顔になっていたかも。