暫くの間、彼女は涙が出っぱなしでこのままじゃ干からびるんじゃないかと思うくらいに泣いていた。

そしてようやく涙が止まり、改めてこちらを向いた。


「ありがとう、ごめんねそういえば私って自己紹介してなかったよね？｣
「あぁ、言われてみれば。｣

すっかり忘れていた。
そんな俺の気持ちが表情に出ていたのか、彼女は楽しそうにニコニコと笑っていた。

「それじゃあ改めてまして！
私は二階堂瀬奈です！同じクラスだよね？
これから1年お世話になります！｣

少し照れくさそうに頬を赤くする彼女、いや瀬奈は年相応の表情で、病気を患っているようには見えなかった。

「八神君って、足が凄く速いんだよね？いーなー！頭ってどうにでもなるけど身体能力ってどうにもならないからなー。｣
「待て待て今ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。｣

頭はどうにでもなるって？
んな訳あるか!!

思わず待ったをかけ頭を良くすることがどれほど困難な事なのかを説明すれば一瞬ポカンとしていた瀬奈は瞬きを数回した後楽しそうに笑い始めた。

「八神君って頭良さそうなのに実は頭悪かったりする？｣

ストレートな言葉に少し不貞腐れながらも首を縦に振る。

大抵の奴はみんな勘違いする。
真っ直ぐの黒い髪にどちらかというと切れ長の目、薄い唇に加え陸上一筋の俺は冷たい印象なんだろうが何で足が速くて少し冷たい印象なだけで頭がいいと決めつけるんだ……!!


そんな俺の切実な訴えを瀬奈は笑いで吹き飛ばした。

「良いじゃん、ほらギャップ萌えみたいな？｣
「そんな笑いながら言われても説得力ねーかんな。｣


あはは、と笑い続ける彼女に少し笑みを零した。

「なぁ。｣ 「んー？｣
「琉生。｣ 「え？｣
「名前、琉生って呼んでよ。俺も瀬奈って呼ぶからさ。いいだろ？｣

そう強制すれば彼女はとても嬉しそうな笑顔を返してくれた。

「うん！もちろん！｣