保健医もいなくなり、何もすることがなくなった俺は自然とまだ眠っている彼女の顔を見つめた。

先程保健医は、「聞いているから。」と言っていたが、彼女は持病か何かなのか?
けど眠り続ける病気なんて聞いた事ないな。
まあ俺がただ知らないだけかもしれねーけどな。俺は自他共に認める馬鹿だし。

「んぅー…。あれ、私いつの間に…?」
「あぁ起きたか。」

俺があーだこーだ考えている内に彼女は目を覚ました。でもまだ眠たい様で片目を擦りながら体を起こした。

「?確か陸上推薦トップの八神琉生君、だったよね…、どうしてここにいるの?」
「あ、あぁたまたまここに用事があって、んでそしたらお前が目覚めるまで見てろって…言われた。」
「あー、そっか、ありがと。ごめんね結構寝てた?」

それにふるふると首を振れば彼女は安心したように肩を下ろした。

「良かった…。入学式出られなかったのは残念だけど。新入生代表挨拶出来なくて正解だったかもな。」

そう言って彼女は少し悲しそうな顔をした。

「…私が出られなかったのはその事じゃないの。…私病気なんだ。」
そう唐突に話し出した彼女はとても辛そうで今にも壊れてしまいそうなほど儚く感じられた。

「クライン・レビン症候群っていって、ずっと眠り続ける病気。私の場合は症状が重くていつ目が覚めなくなるのか分からないんだ。」

俺の手を握っている小さな手は震えていて酷く頼りなかった。

「なんかごめんね!
なんでだろう、なんか八神君には話したくなっちゃった。ごめんこんな話されても重たいよね、ごめん…」

そう言って俺の手を離そうとする手を思わず反射的に掴んだ。
我に帰ったのは彼女の驚いた顔を見てからだった。あー、何やってんだろ、俺。

「いつ眠っちまうのかわかんねーの?」
「…うん、頑張って抑えられる時もあるけどほとんどは寝ちゃう、かな。」

一呼吸置いて本当にこの答えが合っているのか分からないまま話す。

「ならこれから支える相手がいるんじゃね?」
「!!」
「んなら俺がなってやるよ、支える相手に。」

そう言った瞬間に彼女の丸い大きな瞳に透明で、とても綺麗な膜が張った。
泣いている、と気付いた時には彼女の頬には涙が零れ落ちていた。

「あっ、ごめんね私こんな事言ってくれた人初めてで……。すごく、嬉しい。」

彼女はそう言って今日最高の笑顔を見せてくれた。