「ただいま。」
「おかえりなさ〜い。どうだった?新しい学校とクラスは。」
「別に。こんなもんだろ。」

そうわざと軽く言って見せれば母さんはクスッと笑った。

「なんだよ。」
「あら、だってその割には嬉しそうな顔してるじゃない。」
「……。」


この人絶対に性格悪い。
俺この人の性格受け継ぎたかった、父さんのはタチ悪いしな。

わざと溜息をついてやる。

母さんはそれすらも楽しいようで更に笑っていた。
……。俺は全然楽しくない。

「それで、改めてご感想は?」
「…。父さんの血怖ーよ。」
「あら、いい事じゃない。」

そう言って安心したようにさっきとは違う母親らしい笑顔を浮かべた。

「ほら、さっさと今日の分の課題終わらしちゃいなさい。そしたらご飯にしましょ?」
「ん。」



夕飯も食べ終わり、皿洗いも終え母さんが風呂から上がって来たのと同時に下に下りる。

「母さん。俺今から走ってくるから。」

母さんはそう言うと少し眉を顰めた。
俺はその理由を知っている。

父さんが朝のランニングの最中に撥ねられたらからだ。
いつもなら15分で帰ってくる父さんが帰ってこない事に落ち着いてる振りをして実は俺よりパニックになっていた。

そんな時にかかってきた電話に、母さんの顔が真っ青になるのが分かった。

それ以来、母さんは俺がランニングに行くのを心の中では嫌がっている。
口には出さないだけで今も本当は止めたいんだろう。

だが、俺は陸上で誰にも負けない為にも練習しなくてはいけない。
母さんもそんな俺の気持ちを分かってくれているんだろう。文句を言ったことは無い。
ただ顔に出るだけで。

「…気をつけて行ってくるのよ。」
「ん。じゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」



今日は色んな事がありすぎて頭の中ぐちゃぐちゃだな。
そのせいでなんかいつもよりもペースが速い気がする…。この時間でここだともう少し走れるな。

そう思っていつもなら右に行く道をそのまま真っ直ぐに進む。
そのまま暫く走っていて気付いた。


そーいやこっちの方向って一条の家あったよな。
あ、やべ。俺今思いっきりフラグ立てた気がするわ。
さっさと通り過ぎちまおう。

そう思い少し走る足を早めようとした途端、後ろから声をかけられた。


「八神…?」

そのまま無視できれば良かったんだが生憎思いっきり肩をビクッとさせちまった。

あー、これこのまま行ったら絶対ぇ無視したってバレるよな…。

そう悟り早々に諦めて後ろを向いた。
すると案の定あいつがいた。

「八神…。なんでここいつも通んねーのに。」
「今日はいつもよりペース速かったから少し遠回りしようとしただけだ。」
「あー、そっか。」


そこで話が終わり少し気まずい空気が流れてきた。
話は終わったろうと思い口を開きかけたがその前に一条が話しかけてきた。


「なぁ、少しいいか?」
「んっ、…あぁ、分かった。」

少し迷ったがあまりにも一条の顔が真剣すぎて、断れなかった。


そろそろ俺も、覚悟決めろって事だよな…。