帰りの準備が終わり教室を出ようとしていた俺は急に後ろから制服の裾を引っ張られて後ろに倒れそうになるのをギリギリで踏ん張り引っ張った張本人の顔を見る。


「お前さぁ…、俺の事倒したらお前も潰れんの分かっててやってんのかお前はよー。」
「むぅー。だって琉生私に何も言わないで帰ろうとしてんだもん。」

そう言って頬を膨らませる彼女の頭を撫で笑顔で告げる。

「んじゃまたな。」
「うんって、違うー!!一緒に帰ろって言ってるんだってば!」

その言葉を聞き、わざと嫌そ〜に顔を歪めてみせる。

「えー、俺自転車なんだけど。お前そんなに走れんの?」
「普通乗せるか一緒に歩くんじゃないの!?」
「どっちも汗かくしやだ。」
「ほぉ、私が重いとでも…?」

黒いオーラを出す瀬奈に若干ヤケクソになりながら了承すれば表情をコロッと変え嬉しそうな笑顔を向けてきた。

「よーし、じゃあ仲良し記念にクレープ食べに行こう!」
「瀬奈の奢りで?お前まじでいいわー。」
「やだよ!?」
「つか仲良し記念って幼稚園児かよ。」
「うるさいなー、別にいいじゃん。」

ブツクサと喋りながら曲がり角を曲がろうとすれば向こうからの奴と内側を歩いていた瀬奈が正面衝突し、瀬奈が後ろに倒れそうになるのをギリギリの所で支えてやる。


「っ、危ねぇ…おい瀬奈大丈夫か。」
「う、うん大丈夫。だけど私とぶつかった人が倒れちゃってる…、琉生支えてあげなよー酷いなー。」
「お前俺に何を求めてんだよ。」

あほらしい事を言い合いながらぶつかった奴を見る。

「!?」
こいつ……。

俺が息を呑んだのが伝わったのか瀬奈が心配そうな顔で見上げてきたのが分かる。
だが生憎俺にそんな瀬奈の事を気にしてやれる余裕なんてなかった。

「“一条”」

名前を呼ぶとまだ痛そうに腰の辺りを摩っていた一条は驚いたように顔を上げる。

「八神…そっか、お前今朝新入生代表やってたもんなそりゃいるか…。」

そう言ってどこか自嘲じみた笑みを浮かべた彼はまだ尻餅をついた状態のまま俺達の事を見つめた。

そんな状態のまま話をするのは流石にアレだった為、手を差し伸べてやると彼は「悪い。」と苦笑しながら手を握った。


そのまま起こしてやるとチラッと瀬奈の方を見る。

「そっか、もう仲良くなったんだな。珍しいなお前が女子と仲良くなるなんて。」
「別に。こいつがここまでドジじゃなかったら仲良くなってなかった。」


今まで俺達の間の冷たい雰囲気を察してか黙っていた瀬奈も俺のドジという言葉に反応して口を開きかけるのを片方の手で無理やり塞いだ。

「んむっ!」

そんな彼女の事を少し気にしているような一条の事を無視して話を続ける。

「お前、俺の“噂”信じてなかったんだな。」

そう言ってやれば一条は目を見開く。
それから悔しそうに顔を歪める。

「八神、お前俺の事やっぱり信じてなかったのかよ。俺はお前の事信じてたのに…。」

そう言う一条の顔をまともに見ず下を向くと一条が拳を強く握り締めているのが目に入った。

「言っとくけど俺はずっと信じてたからな。お前があんな奴らの言う事真に受けるくらいナイーブな奴なんて思ってなかった!」


そう言いきり、一条は軽く瀬奈に頭を下げてから俺を見た後俺の横を通り過ぎていった。