ぽかんと口を開いた私にも課長はお構いなし。
「午前中に厄介な会議があっただろ? さすがに疲れてな。だからここに来ればお前の顔が見られるかと思って」
「……」
「時間もあまりなかったけど、こうして会えてラッキーだったよ」
ニッコリと笑う彼を前に、もはや返す言葉もない。
…この人は本当に日下部課長なんだろうか。
優しい人だとはいえ、基本クールで仕事に対しては人一番厳しい、あの日下部課長…
のそっくりさんじゃなかろうか。
「ふー…」
唖然としている私の前で、背もたれに体を預けた課長が深い息を吐く。
「…あの、お疲れ様です」
「ん? あぁ、ありがとう。水谷にそう言われると疲れも吹っ飛ぶな」
ふざけているように見えて、課長が疲れているというのは本当なのだろう。
今日の会議には、いわゆるアンチ日下部派と言われている人達が何人も出席していた。だからきっとあれこれ言いがかりのような難癖をつけられたに違いない。
普段私達の前で決して弱音を吐いたりしない彼だけど、ほんの少しだけ、課長の本音が垣間見えた気がした。

