「お前、自分で時間がないって言ってなかったか? 伝達ミスに取引先への遅刻たぁ、なかなか度胸がある奴だなぁ?」
「あっ…!」
ようやく我に返ったのか、時計と課長の間で視線を行ったり来たりさせている徳松さんの顔が再びサッと青くなる。
「す、すみませんっ!! すぐに行きます! 水谷、ほんとにありがとな。お礼はまたあらためてちゃんとさせてもらうから!」
「えっ? いえ、そんなお礼なんて…」
「お礼もいいけど、帰ってきたらたっぷり説教な?」
「ひぃっ…!! じ、じゃあ行って参りますっ!!」
言うが早いか徳松さんは課長から逃げるようにあっという間に事務所から出て行ってしまった。
残された私は呆然とそれを見送る。
…なんだか竜巻が襲撃したかのような慌ただしさだった。
「全く…仕事はできるのにどこかおっちょこちょいなのがいかにも徳松君らしいわね~」
呆れたように溜め息をつきながらも、小倉さんの顔は笑っている。
「あはは…そうですね」
「優花ちゃんもナイスフォロー。いつも細かい所まで気付いてくれるから私も助かってるわ」
「いえいえそんな! ほんとに、やるべきことをやってるだけですから…」
そう。当たり前のことを当たり前にしているだけ。
それでも、自分の仕事をこうして褒められるのが嬉しくないはずがない。
その日は朝からなんだか得したような気がして、心がすっと軽くなった。

