天使の傷跡



「…頼む」

掴まれた右手にぐっと力がこもる。
まるで縋るかのようなその仕草に、眼差しに、
思わず込み上げてきそうになる涙を必死に堪えた。


断らなければ。
中途半端に期待をもたせるようなことはしてはならない。


頭の中で必死にそう訴えている自分がいるのに、実際には金縛りにあったように言葉が出てこない。


ふと、視線を感じて目を向けた先に、じぃっとこちらを見上げる猫の姿があった。



『必死に生きてる?』

『逃げてない?』



「…っ」

言葉なんて通じるはずがないのに、その瞳はそんなことを訴えているようで、ますます言葉が喉の奥へと消えていってしまう。


「わた、し…」