天使の傷跡


しっかり栄養を与えられているのがわかる艶々の毛並み。
けれどその子には他の猫とは違うと一目でわかることが一つだけある。


___それは左足が歪な方向に曲がっているということ。


一目で正常ではないとわかるそれは、その猫が日常生活を送る上で何かしら障害になっていることは明白だった。


「放っておけなくて医者に連れて行ったんだけど、生きてるのが奇跡的だって言われたらますます見捨てるなんてできなくなって。今ではすっかりこの部屋の主だよ」

そう言いながらも、その顔は愛情に溢れている。

食い入るように見つめていると、ふとその猫の視線がこちらを向いて、意味もなくドキッとしてしまう。

「触ってみるか?」

「…えっ?」

「どうやらお前に興味があるみたいだし。よかったら撫でてやってくれよ」

「……」


どうしよう…と迷ったのはほんの一瞬のこと。

透き通った瞳に引き寄せられるように、私の右手はその猫へと伸びていた。