「ここ、俺の死んだ祖母の住んでた家なんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。ばあさんにはガキの頃から色々世話になってな。大学進学後はずっと一人暮らししてたんだが、俺が社会人になって間もなくしてばあさんが病気して体の自由がきかなくなって。じいさんはとっくにいなかったし、今更うちの親とも同居なんかしないって言い張って。なんだかんだ気にかけてるうちに気がつけばここに住むようになってた」
「そうだったんですか…」
「若いもんにはこんな古びた家は似合わないとかよく言ってたけどな。これが住んでみると結構居心地いいもんなんだよな」
昔を懐かしむように細められた目には優しさが溢れている。
…お祖母様のことを大事に思ってたんだろうな。
「…だからなんですね」
「え?」
「あ、いえ…うまく言えないんですけど、初めて来たはずなのに、ここにいるとすごく落ち着くんですよね。不思議なんですけど…。確かに家も置いてあるものも古いですけど、だからこそこの家の歴史を感じるというか。…きっとお祖母様にとって、課長とこの家で過ごした時間は何にも代えられない大切なものだったんでしょうね」
家具や家電を新しくするのは簡単だけれど、壊れて使えなくならない限りはずっと大切に使いつづけていくつもりなんだろうということは、今ここから見えるものだけでも充分に伝わってくる。
きっと、課長が大事に大事に扱っているのだろう。

