カタンと小さく響いた扉の音に、キッチンに立っていた課長が振り返るなり微笑んだ。
「ちゃんとあったまったか?」
「…はい…あの、これ、ありがとうございました。今度ちゃんとお返ししますので…」
正直この状況はありがた迷惑以外の何ものでもないと言いたかったけれど、その言葉をぐっと呑み込んで感謝を伝える。
冷え切っていた体が芯からあったまったのは事実なわけだし。
「いいな、それ」
「…え?」
顎に手を当ててじっとこちらを射貫く視線に、なんだかとてつもない居心地の悪さを感じる。
「好きな女が自分の服着てるって、ぐっとくるもんがあるな」
「はっ…?! なっ、何を言ってるんですかっ…!!」
思ってもいないことを言われて、ボンッと全身から火を噴いた。
長袖長ズボンとはいえ異性の服を着ているという現実に、今更ながら自分がとんでもないことをしているのだと自覚して、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
慌てて両手を前に組んだ私に、課長はくくっと肩を揺らしている。
「あ、悪趣味ですよ…!」
「悪い悪い。あんまりお前が可愛いもんだからつい、な」
「かっ…!」
告白されてからというもの、何でもないように可愛いを連呼する課長に、ますます顔が赤くなっていくのがわかる。