「いや、だってそんなに息切らしてまでここに来たのは俺のことを心配してくれたからだろう? わざわざタオルまで持参して。好きな女にそこまでしてもらえたら普通に嬉しいだろ?」
「……」
呆気にとられるとはまさにこのことだ。
…この人は本当に何を言ってるんだ。
へろっと見せられた満面の笑みに、どっと脱力してしまう。
あまりにも呑気すぎる課長の姿に、一瞬にして毒気を抜かれてしまった。
まるでこれじゃあ怒ってる私がおかしいみたいじゃないか。
その拍子に手にしていた傘がするりと抜け落ち、尚もどしゃ降りの雨が容赦なく私の全身にも降りかかってくる。
「あぁ! 何やってんだ、お前まで濡れるじゃないか!」
一転焦ったように課長が傘を拾い上げて私の頭上に掲げたけれど、時既に遅し。
たった数秒の間にびっくりするほどずぶ濡れになってしまった。
「…一体誰のせいだと思ってるんですか…」
「あぁ、俺のせいだな。…大丈夫だ。ちゃんと責任取るから」
「…えっ?」
俯いていた顔に影が差したと思った時には、何故か課長の大きな手が私の背中に回っていた。

