「…お。やっと来たな」

はぁはぁと全身を上下させながらようやく現れた私を前に、ぼたぼたと雨粒を滴らせる男性は怒るでもなく、目尻を下げてただふわりと微笑んだ。

その姿を見た瞬間、腹が立つやら罪悪感やら、色んな感情がごちゃ混ぜになって一気に溢れだす。


宣言通り、課長は駅前で私のことを待っていた。

____約束の時間から二時間半、全身をずぶ濡れにした状態で。

容姿の整った人はこんな状況でも様になるんだななんて、ほんの一瞬過ぎったどうでもいい思考を振り払うようにキッと課長を睨み付ける。

「…っ、あな、あなたはっ…! 一体何を考えてるんですかっ…!」

「ん? 何か問題あるか?」

「っ、あるに決まってるでしょう! 私行かないって言いましたよね?! こんなことされても困るって。それなのに、こんな雨の中何時間も待つだなんて…! 一体何を考えてるんですか!!」

相手は上司だとわかっていても、興奮した感情を抑えることが出来ない。
ぷりぷり怒りながら鞄から取り出したタオルを大きな体に押しつけると、課長はそんな私の態度を気にする素振りすらなく、それどころかますます嬉しそうに顔を綻ばせた。

「だから何を笑ってるんですか…!」

人の気も知らないで!

「仕方ないだろ? お前が可愛いんだから」

「はっ? な、何を言って…!」