「あまり餌付けされるなよ」
「…え?」
既に自分の作業に戻っていた私は一瞬自分が言われたことに気付かなかった。
だいぶ遅れて顔を上げると、いつからそうしていたのか、片肘を棚についた状態でじぃっと課長が私を見下ろしていた。
射貫くようなその視線に、訳もなく一歩下がってしまう。
けれど何故か下がった分だけズイッと課長が一歩前に出てくる。
何度かそれを繰り返しているうちに、私の体は壁にぶつかって逃げ場を失ってしまった。
互いの距離は実に五十センチ。完全にヘビに睨まれた蛙状態だ。
「か、課長?! あ、あのっ…!」
なんでかわかんないけど怒ってる…?
何か仕事でやらかしただろうかと必死で思い出すけどわからない…!
というか考える余裕を与えてもらえないっ!
「…親しみやすいのはお前の美点だがな。くれぐれも隙は見せるな」
「え…?」
どういうこと…?
小倉さんといい課長といい、謎解きが多すぎじゃないですか…?
そんな私の困惑がありありと見て取れたのか、課長は軽く腰を折ってハァッと息を吐き出すと、あらためて私を見た。
真正面から向けられた端正な顔立ちにドキッとする。

