「あ、ありがとうございます…!」
「おー。営業のついでだから気にすんな」
笑いながらも軽く手を挙げて席に着いた徳松さんはすぐに仕事モードに切り替わる。
いつもからかわれてばかりだけど、この人のこういうところはさすがだと思う。
そうでなければやり手ばかりの営業部で期待の星だなんて言われないか。
「…ふふっ、初々しいわねぇ~」
「えっ?」
ふと横を見れば小倉さんが何やら楽しそうに笑っている。
「それ、『ついで』で手に入れるには大変なものよ? ちゃーんと味わって食べた方がいいわよ~?」
「そ、そうですよね。大事にいただきます…!」
「いろ~んなことを噛みしめて食べてね?」
「え? …はい…?」
何とも意味深なことを言われたような気がするけど、その真意まではよくわからない。
でも前にテレビで見たときにもすごい行列だったから、いくら営業のためのついでとはいえ心から感謝していただかなければ。
もったいないから一日一粒ずつ食べようかな。
「…徳松君も健気ねぇ…」
よしっ!と気合を入れ直した私の横で小倉さんが何かを呟いたような気がしたけど、それが私の耳に届くことはなかった。