その後、出張の日以外はいつ行っても課長が一番乗りでここにいた。
何度かおにぎりをあげるというやりとりを繰り返すうちに、だったら課長の分まで作ってきましょうか? と打診した私に、課長はぶんぶんと尻尾を振り回す大型犬のようにわかりやすく喜んだ。


それから一年。

時々、そこにやましいことが一切なくとも、上司とこういう状況を続けていてもいいのだろうかと迷いが生じることもある。
けれど私にとって朝のこの時間は、何にも代えがたい、とても大切な大切な空間へと変わっていた。


…多くを望んだりしない。
これ以上のことを欲張ったりしない。


「相変わらずお前の作るメシは美味いな。いい嫁さんになるのを俺が保証してやる。どうだ、俺の嫁になる気になったか?」

「なりません」

「ハハハッ、相変わらずつれないなー。…だがそこがいい」


だからそんなに甘い誘惑をしないで。
そんなに優しい目で見つめないで。

お願いだから。



そうでなければ、永遠に封印するはずのこの恋心が、
溢れ出してしまうから____