嘘をついてまで私を呼び出しそのことを自覚させた課長。
何度言い聞かせられても、当の私はいまだに信じられなかった。


経営が窮していた大阪支社に出向し、僅か二年の間に見事立て直すことに成功した後、三十三歳という若さで営業課長となって本社へと凱旋した。それどころか、次の役職への昇格もそう遠くないとまで言われている。
それから一年、私は彼の部下として働いている。

彼は私が入社した時から既に有名人だった。
若手の中でも群を抜いて出世街道まっしぐらの超エリートがいると。

そして彼を有名にしていたのは仕事だけに非ず。
日本男性の平均よりもずっと高い身長に、誰もが羨むほどの長い足。
黒髪を整髪料で軽く流し、何かスポーツをやっていたのだろうか、ガシッとした体躯に細身のスーツを身に纏った姿は、そのまま雑誌に登場してもおかしくないほど様になっている。

高い能力に負けないほどのルックスを持ち合わせている。
それが日下部颯介という男だった。

当然のように彼に憧れる女性社員は後を絶たず、けれど当の本人はどんな美女であろうと鼻にもかけず。あまりにも難攻不落過ぎて、噂では取引先の女性に押し倒されたこともあるとかないとか。
真偽の程は定かではないけれど、彼ほどの男性ならあながち嘘ではないかもなんて思っている。


それほどの男性が何故私なんかを。

こんな、何の取り柄もない、平々凡々な事務員を。