息もできない。



食べながら、嫌がられない程度にまたぽつぽつと質問してみる。

「今いくつ?」
「24です」
「じゃあ4つ下だ」

正直24よりは下に見えていたから驚いた。容姿的には20歳くらいに見えなくもない。
麻由子も少し驚いた顔をしていたから、私の年齢が予想外だったのかもしれない。私が若く見えていたのかもっと上に見えていたのか、聞かないけど多分お互い同じなんだろうと思う。

「仕事はー…」

聞きかけて、あんなとこにいて、こんなとこに来てるんだからしてないか なんて勝手に想像して躊躇する。それを察してかどうかはわからないが、麻由子はさらりと答えた。

「ガールズバーで、たまに」
「あ、そうなんだ」

意外だった。男とか苦手です、って顔してるのに。
もし本人に言ったらどんな顔ですか、なんて返ってくるのかなと想像だけして満足する。
ガールズバーの話を聞いていたら、私には縁遠い話ばかりで興味深かった。
無口そうに見えて、麻由子は話を振ればぽつりぽつりとではあるがちゃんと喋る。
どうしてここで働いてるの?と聞くお客さんが一番多く、だいたいは嘘を答えてること。源氏名があるが恥ずかしいから言いたくないこと、など。

そんなタイミングで、軽快な音楽が部屋に鳴る。そしてその後に「もうすぐお風呂が沸きます」と機械音。
もう湧くのか、と何気なく腕時計に目を落とした。

「時計」
「え?」
「ないんですね」
「ん?」
「…部屋に」
「あー」

部屋には特に壁掛けの時計も置き時計もない。家にいるときはそんなに時間を気にしないし、腕時計も基本お風呂に入るまではつけている。今ではスマホもあるし、家に時計がない人も多いだろう。

「いらなくない?スマホあるし」
「…ですね」
「あ、そういえばスマホって」

連絡を取れる手段があるのか、または誰かから連絡はないのか。そんな意味を含みつつ聞くと、麻由子はゆっくりとポケットからスマホを取り出した。花柄のケースがついている。

「電池ないの?充電する?」
「…」
「しなくてもいいけど」

小さく頷いた。
私が思った通り、やはり誰かから連絡がきてもおかしくはない状況だろう。家出か、誰かから逃げているのか。なんであれ、これって誘拐になるのかな と呑気に考えていた。