小さな恋物語

「いや〜。松本っていつも冷静で、他の女生徒とは違うって思ってたけど、部屋は案外普通だな」

そう言って、彼はタンスの上のぬいぐるみや、鏡台の上の小物を見ている。もし来ると知っていたなら、全て隠しておいたのに。

「……声が出ないのに、喋りかけるのはかわいそうだな。じゃあ、帰るわ。お大事に」

彼は立ち上がり、ドアのぶに手をかけた。

「待って!!」

自分でもびっくりするくらい大きな声で、私は彼を呼び止めた。

「声、出るのか?」

驚いたように彼は振り向いた。

「先生、私のこと嫌いにならないで。本当は普通の女子て変わらない趣味とか考えとかしてて、男の前で猫被ったりすることもあるけど……嫌いに……ならないでっ」

心のダムが崩壊してしまった。今まで演じてきた冷静な私は身を潜めてしまって、彼が今見ているのは普通の女子高生である私。彼はどんな顔をしているだろう。作り笑いか?それとも、無表情だろうか。