小さな恋物語

しかし、予期しない事件が起きてしまった。

「百合、谷崎っていう先生が来て下さったわよ?」

ドアの向こうから聞こえる母の言葉に、耳を疑った。どうして彼が私の家に?どうしよう。窓から飛び降りて逃げようか。それとも、屋根に逃げようか。あたふたしているうちに、ドアが開き、彼が入ってきた。

「家が近いから寄ってみたんだけど……インフルエンザだって?」

相変わらず、彼は時間を止める力をもっているようだ。彼が入ってきた瞬間、私の部屋の時間は停止してしまった。

「〜〜〜」

「あ、喉痛めて喋れないのか?大変だな」

混乱して言語が出なかっただけなんだけど、どうやら彼は都合よく解釈してくれたらしい。これで喋らずに済む。今の私は、何を言い出すか分かったものではない。