これは夢ではないのか。そんな疑いが、彼を前にしても晴れない。今、私の目の前には彼が座っていて、しかも小さな教室に2人きりなのだ。

「職員室じゃあ騒がしくて集中できないだろ?」

「えぇ、まあ」

緊張でうまく喋れない。何と受け答えすればいいのか、全く考えられない。それに、さっきから目が泳ぎっぱなしなのが、自分で分かる。彼を目の前にして、どこを見ればいいのか分からない。

「じゃあ、始めるか」

「あ、はい」

パラリと教科書を開き、内心ホッとする。教科書を見れば、挙動不審にキョロキョロする必要がない。

「まず、問の条件に注目して……」

解説は30分程で終わった。分かってしまうと、あまりに簡単な問題だったと気づく。こんな問題もできないなんて、この女は馬鹿だ。と思われているかもしれない。そう思うと、彼の顔を見ることができず、私はうつむいたままお礼を言い、ドアに近づいた。