「わ、わかってるよ」
「わかってないわよ、咲花はなにも。今の時代は、女だってひとりで生きていけるようにならなきゃいけないの。そのためには学歴が全てなのよ?」
お母さんはなにかと学歴に固執している。
女だって強くなきゃいけない。
ひとりで生きていく力を身につけなきゃいけない。
そのためにはいい大学に入って、一流企業に務めること。
それなりのお給料をもらって、きちんと自立して。
男の人に頼って生きるのは、情けないことなんだって。
「結婚したって幸せになれるとは限らないの。女の幸せが結婚なんていうのは、大きなまちがいだわ」
四年前、私が小六の時にお父さんと離婚してからというもの、耳にタコができるほど聞かされた言葉。
離婚してからお母さんは変わった。
以前はもっとずっと優しかったのに、中学生になった頃から勉強のことをきつく言うようになった。
「聞いてるの?努力してお姉ちゃんのようになりなさい。高校はダメだったけど、大学は絶対に同じところに行くのよ?」
眉を吊り上げて声を荒げるお母さん。
私の愛想笑いも、お母さんには効果がない。
「返事は?」
「はい……」
「さっさと着替えてご飯を食べなさい。そのあと、少しでも勉強するのよ?いいわね」
そう言い残して、お母さんはキッチンへと消えていった。
重い足取りでリビングを出ると、二階の自分の部屋へ向かう。
この家は……今の私にはすごく居心地が悪い。