「わり……」


「う、ううん……!」


「大丈夫か?」


「う、ん」


私の顔の横に手をつき、上から見下ろされる。


整った顔がすぐ目の前にあって、見つめ合っているというこの状況。


全身がカーッと熱くなる。


ーードキンドキン


自分のものなのか、はたまた怜くんのものなのか。


密着しすぎているせいでわからない。


「嫌、だよな……?もうすぐ着くから、我慢して」


耳元で囁かれた声はとても優しくて、どこか遠慮がち。


本当に申し訳なく思ってくれているのか、腕に力を入れて、できるだけくっつかないように踏ん張ってくれているのがわかった。


さらに怜くんは目を合わせようとせず、ドアのガラス窓の部分から外を眺めている。


「嫌じゃないよ」


「えっ?」


「怜くんのこと、そんな風に思ってない。むしろ、ありがとう」


怜くんがいなかったら、チビの私は人の波に押し潰されていただろう。


「べつに……礼を言われるようなことはしてねーし」


「そんなこと、ないよ。ありがとう」


まっすぐに目を見つめながら、微笑んでみせた。


ぶっきらぼうでクールで無口だけど、本当はとっても優しい人。


じゃなきゃ、瞳ちゃんに合わせてカフェに付き合ったりしないよ。


ましてや、ダブルデートなんかしてくれるはずがない。


それがわかった今、怜くんへの苦手意識が少しだけ軽くなった。


「……バーカ」


そう言った怜くんの口元が柔らかくゆるんでいるのを見て、なぜか胸が高鳴った。